RESEARCH

AIに記録を書かせたら16分減った。別の研究では16秒だった

2026 / 08 / 31AIdollargame 編集部読了 約7分
夜のデスク。ノートパソコンの画面に大きく時刻が表示され、手前に開いたノートが置かれている

AIを入れたのに、どれくらい楽になったのか自分でも説明できない。そういう経営者に向けて書きました。

医療の現場では、話した内容をAIが聞き取って記録に起こす道具が、すでに何万人という単位で使われています。効果を測った研究もそろってきました。ところが数字が、16分と16秒でぶつかっています。

どちらも大きな実測です。どちらも間違っていません。今日はこの食い違いの正体と、自社でAIの効果を測るときに先に決めておくべきことを書きます。

臨床医8,581人を追った実測

まず一番大きいものです。2026年4月1日にJAMAへ載った、査読済みの論文です。

結果は、診療予定8時間あたりに換算して次のとおりでした。

ここで大事なのは、16.0分という数字がぶら下がっている先です。1回の診察あたりではありません。診療予定8時間あたり、つまりほぼ1日ぶんに揃えた数字です。

論文を紹介した記事の中には、これを「1回の診察あたり16分」と書いたものがありました。同じ数字でも、かかり先が変わると意味はまるで別になります。

同じ道具を、1回あたりで測った研究

次が食い違いのもう片方です。2026年5月29日のJAMA Network Open、こちらも査読済みです。

こちらの主役の数字はこうでした。

0.26分は、約16秒です。

同じ論文では、勤務時間外の記録が月を追うごとに0.38分ずつ減り続けたこと、収益の単位であるRVUが7.40増えたことも報告されています。一方で、1日あたりの予約件数と効率スコアには差が出ませんでした。

257万件を割ってみる

3本目です。カイザー・パーマネンテの医師集団であるTPMGが、NEJM Catalystに出した実装報告です。

ここからは私の計算です。16,000時間を秒に直して257万6,627件で割ると、1件あたり約22秒になります。

先ほどの16秒と、同じ桁に着地しました。

数字は矛盾していない

並べ直します。

外来の医師が8時間で何人を診るかを思えば、同じ現象の別の見え方です。片方だけを取り出せば「劇的に楽になった」とも「ほとんど変わらない」とも言えます。

AIの効果を測るとき、最初に決めるべきなのは何分減ったかではありません。何あたりで数えるか、です。ここを決めずに始めた計測は、あとから都合のいい方に読めてしまいます。

もう一つの分かれ目は、いつ測るか

理由はもう一つあります。時間です。

査読前のプレプリントですが、期間ごとの変化を追った研究があります。2026年3月5日公開。プライマリケアの臨床医220人、36診療所、314,845件の診察を、導入前24週と導入後24週で比べています。

導入直後(0日目)と150日目を並べると、こうなっていました。

導入した日の効果は、半年後の効果の半分以下でした。

そして、時間外の作業は最初まったく動いていません。動き始めたのは、しばらく使い続けたあとです。

これは1本目のJAMAで「勤務時間外の時間に差が出なかった」ことと、きれいに噛み合います。導入直後を含む期間を平均すれば、あとから出てくる効果は薄まって消えます。

1本目のJAMAでも、効果が大きかったのは、診察の半分以上で使っていた人たちでした。たまに使う人と毎回使う人を混ぜて平均すれば、やはり数字は小さくなります。

なお、この4本目は1つの医療システムだけを見たもので、データも公開されていません。確定した話としては扱わないでください。

中小企業の現場に翻訳すると

医療の話ですが、記録を作る仕事はどの業種にもあります。介護記録、日報、議事録、点検表、問い合わせの応対履歴。同じ読み方が使えます。

まとめ

どれも海外の医療現場の研究です。数字をそのまま自社に当てはめず、測り方の作法として使ってもらえればと思います。

AIで記録が楽になること自体は入口にすぎません。空いた時間を何に使えたのかまで数えられるようにしておくと、次に何を任せるかの判断が速くなります。

出典

https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2847319

https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2849634

https://divisionofresearch.kaiserpermanente.org/ai-assisted-notetaking-gains-steady-support-from-kaiser-permanente-physicians/

https://www.medrxiv.org/content/10.64898/2026.01.12.26343538v3

写真:Openverse(CC0)

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