RESEARCH

AIで書くと語彙は増えて、中身は似てくる

2026 / 08 / 17AIdollargame 編集部読了 約7分
古い活字の木製ブロックが箱いっぱいに並んでいる様子

AIに販促文や提案書を書かせている中小企業の方に向けた記事です。

この夏に公開された、米国4大学の願書エッセイ372,793通を分析した研究を読みました。ChatGPT登場後のエッセイは、使われる単語のバリエーションが増えた一方で、書かれている考えの中身は互いに似てきていました。しかも読み手(人間の専門家)は、その文章を以前より創造的だと評価していました。

うちも毎日AIに文章を書かせている会社なので、他人事ではありません。同じ現象を扱った研究をもう2本並べて、明日から何を変えればいいかまで書きます。

37万通を前後で比べた研究

ジョージタウン大学などの研究チームが2026年6月17日に公開した論文です。事前登録(何を検証するかを分析前に公表する手続き)つきで、そこは信頼できます。ただし査読はまだ通っていないプレプリントの段階です。

調べたのは、米国の4大学(難関私立・地方私立・州立の旗艦校・小規模リベラルアーツ校)に実際に提出された志望理由エッセイ372,793通。ChatGPTが公開された2022年11月30日をはさんで、前と後を比べています。

分析は3つの層に分けて行われました。

結果は、層によって向きが逆でした。ChatGPT公開後のエッセイは、単語の層では多様性が上がり、文の層と文書の層では下がっていました。研究チームはこれを「意味の乖離」と呼んでいます。表面の言葉は豊かになり、その下の考えは揃っていく、という意味です。

効果の大きさ自体は、統計の指標で0.06から0.39程度。激変ではありません。ただ、37万通という規模で、4大学すべてで同じ向きに出ています。

AI検出ツールにかけると、ChatGPT前は1,000通中1通しか「AIまたは混在」と判定されなかったのに、後は1,000通中125通。そのAI判定分だけを取り出すと、文の層の低下は全体平均の約5.3倍、文書の層の低下は約5.8倍と、傾向がはっきり強く出ます。

「上手に見える」のからくり

この研究のいちばん怖い部分はここからです。

研究チームは、創造性研究の専門家22人に370通のエッセイを採点してもらいました。1人あたり約50通を読み、他のエッセイと比べたうえで評価してくださいと明示して行った採点です。

その採点を3つの層で説明してみると、評価をいちばん強く左右していたのは単語の層の多様性でした(標準化係数0.42)。文の層は0.20、文書の層は0.22で、どちらも単語の層に届きません。専門家でも、語彙の豊かさに引っ張られて創造性を判断していたということです。

結果として、ChatGPT公開後のエッセイは、中身が互いに似てきているのに、以前より創造的だと評価されていました。

さらに、その大学に通う学生203人に、自分が提出した願書エッセイを持ち込んでもらう実験も行われています。参加者自身に「自分らしさを保つための指示文」を考えてもらったうえでAIに書き直させたのですが、それでも単語の多様性は上がり、文の層の多様性は下がりました。気をつけたつもりでも、同じ方向に動いたわけです。

書いた本人にも、読んだ専門家にも気づけない。ここが学びどころだと思います。

「同質化」はどのくらい起きているのか

1本の研究だけで結論を出すのは危ないので、同じテーマを広く集めた研究も見ました。2026年6月にイタリアで開かれた欧州認知エルゴノミクス会議で発表された、体系的レビューとメタ分析(複数の研究の結果を統計的にまとめる手法)です。人とAIの共同制作の同質化を扱った19本の実証研究、61個の効果量をまとめています。

結論は「小さいが確かにある」。効果量は0.334で、出版バイアス(都合のいい結果ばかり論文になる偏り)を考慮しても残りました。著者らは、創造性が落ちたというより、多様性の配置が組み替えられているのだと整理しています。

もうひとつ重要なのが、どんな作業で強く出るかです。お題や条件がきっちり決まっている発想作業ほど同質化が強く、自由度が高い作業では弱い。実務に置き換えると、求人票、商品説明、定型の提案書、季節の販促メールのように、書くことがだいたい決まっている文章ほど揃いやすいということです。

逆に、多様性が増えた条件もある

ここまでだと「AIは危ない」で終わってしまうので、逆の結果も載せます。

2026年3月に公開されたプレプリントで、学生のエッセイ6,875本を5つの条件(人間だけ、AIだけ、指示の出し方を変えた3種類の組み合わせ)で比べた研究です。

ここでは、AIを使うと文章の質は上がる一方、文のつながり方の構造では分散の70から78パーセントが失われていました。ばらつきが消えて、みんな同じ組み立てになるということです。

ところが同じ研究の中で、視点の多様性はむしろ増えていました。さらに、指示を具体的に出す条件では、論の深さについて同質化が多様化に反転しています。著者らの結論は明快で、同質化はAIの性質ではなく使い方の設計しだいだ、というものです。

3本を並べると、分かれ目は「AIを使うかどうか」ではなく「何を渡して書かせるか」だと読めます。

中小企業が明日から変えられること

1. 書かせる前に、自社にしかない事実を3つ渡す

同質化が起きるのは、AIが持っている一般的な知識だけで書かせたときです。語彙をいくら変えても、材料が同じなら中身は揃います。指示文を工夫する前に、渡す材料を変えるほうが早い。

先月の実数、現場で実際に出たクレーム、断った案件とその理由。この3つを箇条書きで渡してから書かせるだけで、出てくる文章は他社と別物になります。

2. 確認の合格ラインを「上手か」から変える

専門家22人でさえ語彙の豊かさに引っ張られました。社内の確認でも同じことが起きます。

確認の質問をひとつ足してください。「この文章の社名を競合の名前に差し替えても、そのまま成立するか」。成立するなら、それは自社の文章ではありません。上手かどうかではなく、他社に書けないかどうかで見る。判断が速くなります。

3. 揃っていい文章と、揃ってはいけない文章を分ける

すべてを差別化する必要はありません。議事録の要約、定型の返信、仕様の整理は、揃っても損はしないのでAIに任せて速度を取る。

一方で、提案書の冒頭、採用ページ、自社発信の記事は、似た瞬間に価値が消えます。ここは骨子を人が決めて、AIは磨き役に回す。「条件が決まった作業ほど揃いやすい」を逆手に取って、揃っていい作業を意図的に選ぶ、という考え方です。

まとめ

AIに書かせると、たしかに文章は速くなり、見た目も整います。その分の時間で、他社が書けない材料を取りにいく。現場に足を運んで数字を数える、断った理由をメモに残す、失敗を社内で言葉にする。その材料があってはじめて、AIは自社の文章を書けるようになります。

楽になった先に何をするか。私たちが考えたいのはそこです。

出典

https://osf.io/preprints/psyarxiv/jsz58

https://research.tilburguniversity.edu/en/publications/does-generative-ai-make-us-think-alike-a-systematic-review-and-me/

https://arxiv.org/abs/2603.21228

写真: Openverse(CC0)

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