AIで作ったコンテンツは、結局だれにも読まれない。そう思っている方に読んでほしい記事です。
先月、Amazonで売られている自費出版の小説1万4,419冊を全文AI判定にかけ、日々の実売データと突き合わせた研究が公開されました。結論から書くと、AIで書かれた本は無視されていませんでした。売れています。ただし同時に、市場全体で1冊あたりの売上が落ちていました。
いっぽうで、「AIが書いた」と明かすと評価が下がる、という別の実験もあります。3,861人の全国代表サンプルで確かめられたものです。
売れている研究と、嫌われている研究。両方並べると、自社の商売がどちら側の棚に置かれているのかがはっきりします。私たちも中小企業にAIを入れる仕事をしているので、都合のいい側だけを引かずに書きます。
調べたのは、Amazonの自費出版1万4,419冊
Tuhin Chakrabarty氏らによる研究です。2023年から2026年にかけてAmazonで売られた、自費出版のジャンル小説1万4,419冊が対象です。
- 全文をAI検出ツール(Pangram)にかけ、AIが書いた文章が25%を超える本を「AIの本」として分類
- 売上は、大手出版社が持つ販売パネル(Amazonの約50万ASINをカバーし、日次販売数の約95%以上を捉えるもの)と突き合わせ
- 対象期間は2023年から2026年6月まで
大事な前提が論文に明記されています。この1万4,419冊は、どれ一つとしてAIを使ったことを開示していません。読者は知らずに買っています。
結果1:棚の20%、売上の12.1%
発売直後の期間で見ると、AIの本は次の位置にいました。
- 本の点数では全体の20%
- 販売数では12.1%、売上金額では11.3%
つまり、点数の割には売れていません。上位ほど差は開きます。売上上位5%の座席のうち、AI検出ゼロの本が73%を占め、AIの本は10%まで落ちます。「AIの本は質で負けている」という直感は、ここまでは合っています。
問題はその先です。AIの本の販売シェアは、2023年初めのほぼゼロから、2026年4〜6月には約20%まで上がっていました。上位の座席も、少しずつ入れ替わっています。
質で負けたまま、量でシェアを取っている。これがこの研究のいちばん重い指摘です。
結果2:冊数は19.2倍、売上は8.9倍
もう一つ、市場全体の数字があります。2023年1月から2026年3月にかけて、
- その四半期に1冊でも売れた本の数は、19.2倍
- 四半期の売上金額は、8.9倍
私の計算で割ると、1冊あたりの売上はおよそ0.46倍です。半分以下になっています。論文も、ほとんどのジャンルで1冊あたりの売上が下がったと書いています。
ここは慎重に読む必要があります。この落ち込みは全部がAIのせいだと証明されたわけではありません。ただ、AIの普及が進んだジャンルほど、AI検出ゼロの本が地位を落としていました。とくに読み放題(Kindle Unlimited)の比率が高いジャンルでは、AIゼロの本の優位が8.5ポイント小さくなっていました。
読者が1冊ずつ買うのではなく、月額で読み放題に入り、合わなければ次に進む。そういう棚ほど、量が効くということです。
反対側の研究:「AIが書いた」と言うと、評価は下がる
ここで反対向きの結果を並べます。Chuyao Wang氏らが3,861人の全国代表サンプルで行った調査実験です。
同じ記事に「AIが作成」というラベルを付けるだけで、記事の正確さの評価は下がりました。中身は同じです。関心も落ちました。
ただし波及は限定的でした。政策そのものへの賛否は変わらず、ネット上の誤情報への一般的な不安も高まりませんでした。そしてもう一つ、実務に効く結果があります。AIをどう使ったかの文脈を示すと、ラベルによる悪影響は小さくなりました。
分かれ目は「開示しているかどうか」ではなく、棚の作り
2つの研究をつなぐと、こうなります。
1万4,419冊の本は、AIを使ったと名乗っていません。名乗らないまま、量でシェアを取りました。名乗った瞬間、もう一方の実験の世界に入ります。評価が下がる世界です。
では隠すのが正解かというと、違います。分かれ目は棚の作りのほうにあります。
- 選ぶ前に中身を試せて、外れても損が小さい棚(読み放題、無料記事、SNS)は、量が効きます
- 選ぶ前に「誰がやっているか」を見て決める棚(BtoBの発注、地元の工事、士業、医療介護)は、量では動きません
中小企業のほとんどは後者の棚にいます。そこで前者の戦い方をすると、増えるのは点数だけで、1件あたりの成果は落ちます。まさに1冊あたり0.46倍と同じことが起きます。
明日からできること
- 自社が置かれている棚を1回だけ判定する。お客さんは中身を試してから選んでいるか、誰がやるかで選んでいるか。この1問だけで、AIの使いどころが変わります。
- 量で戦う棚にいるなら、1件あたりの成果が下がる前提で数える。記事もSNSも、去年と同じ本数で同じ結果は出ません。目標は本数ではなく、1本あたりの数字で置きます。
- 名前で選ばれる棚にいるなら、AIを隠さず、使い方まで書く。「下書きはAI、確認と判断は担当者」と一行添えるだけで違います。ラベルの悪影響は、文脈を示すと小さくなるという結果が出ています。
そのうえで、量で埋められないものを1つ持っておくことです。自分たちで数えた一次データ、自社の失敗、現場でしか撮れない写真。私たちも今月のはじめに、中古トラック1万5,145台の値札を自分たちで集めて記事にしました。手間はかかりましたが、これはコピーされません。
まとめ
- AIで書かれた本は無視されていない。棚の20%を占め、売上の12.1%を取り、シェアは2026年に約20%まで伸びた
- ただし上位の座席は今もAI検出ゼロの本が7割超を占める。質では負けている
- 市場全体では、売れる本の数が19.2倍に対し売上は8.9倍。1冊あたりはおよそ半分以下に
- 別の実験では、「AIが書いた」と明かすと評価が下がる。ただし使い方の文脈を示すと影響は小さくなる
- 量が効く棚と、名前で選ばれる棚は別物。自社がどちらかを決めてから、AIの使い方を決める
AIで本数を増やすのは、たしかに楽になります。ただ、楽になった分をまた本数に注ぎ込むと、1本あたりが薄くなるだけで終わります。空いた時間を、自分たちにしか出せないものに回せるかどうか。私たちが「楽ではなく、楽しいを考える」と言っているのは、そういう意味です。
出典
- Tuhin Chakrabarty, Xinyue Liu, Jane C. Ginsburg, Paramveer Dhillon「Generative AI floods and dilutes the market for books」(arXiv:2607.20349、2026年7月22日公開・8月3日改訂。査読前の研究。対象は自費出版のジャンル小説1万4,419冊、売上データは2026年6月まで)
https://arxiv.org/abs/2607.20349
- Chuyao Wang, Patrick Sturgis, Daniel de Kadt「AI labeling reduces the perceived accuracy of online content but has limited broader effects」(arXiv:2506.16202、2025年6月公開・2026年2月改訂。arXiv上では査読の有無は示されていません。全国代表の確率標本3,861人による調査実験)
https://arxiv.org/abs/2506.16202
- 中古トラック1万5,145台の値札を自分たちで集めた記録は、当社の2026年8月6日のnote記事にまとめています
この記事と同じ内容を、公式noteでも公開しています。 公式note 記事一覧