RESEARCH

AIに任せた問い合わせは64.6%速くなり、評価は0.858点下がった

2026 / 08 / 09AIdollargame 編集部読了 約5分
複数のモニターとヘッドセットが並ぶ、問い合わせ対応の現場

問い合わせ対応にAIを入れるかどうか迷っている方に向けた記事です。

結論から書くと、「AIに下書きさせる」のと「AIに対応させて人が見張る」のとでは、顧客の評価が逆方向に動きました。アリババの同じ現場で、同じ研究チームが2回ランダム化実験をやっていて、そこがきれいに分かれています。

私たちも問い合わせ対応のAIを売っている会社です。都合のいい数字だけ拾うと嘘になるので、上がった数字と下がった数字を両方並べます。

実験1:AIを「下書き役」にしたら、速さと満足度は上がった

1本目は、Taobaoのアフターサービス(返金・交換・配送遅延など)のチャット対応の実験です。

AIを使える状態にしただけで、こう動きました。

実際に使ったぶんだけで見ると効果は約4倍で、切り分け時間は32.3%短縮、評価は0.184点上昇。それでも再問い合わせだけは動きません。

著者の説明はこうです。社内の対応規程は実験中に変えていないので、AIは「見立て」と「伝え方」をよくするが、担当者に許された解決手段そのものは増やさない。だから体験は良くなるのに、解決したかどうかは変わらない。AIを入れても返金の権限が同じなら解決率は動かない、ということです。

誰に渡すかで結果が逆。苦手な人は伸び、上手い人は下がった

平均の裏に、もっと大事な差がありました。

事前の顧客評価で担当者を5段階に分けたときの、実測の平均評価(AIを渡した群)です。

苦手な人ほど伸びて、上手い人は下がった。差は縮まったが、上位が削れた形です。

理由も追いかけていて、上位層はAIを使うと同時進行の他のチャットへ意識が移る時間が増え、解決段階の応答が15.5%、確認段階が17.4%遅くなり、10分以内の再問い合わせが3.5ポイント増えていました。目の前の一件が途切れたわけです。

使用率も、最下位層39.3%に対して最上位層は18.3%。上手い人は元から疑って使っています。

実験2:AIを「対応役」にしたら、速さは大きく伸びて、評価は落ちた

2本目は、同じTaobaoでAIが自分でチャットを完結させ、人は監督に回る形の実験です。

結果はこうなりました。

さらにAI対象の11,069件を、人がどう関わったかで割ると差がはっきりします。人だけで対応した似たチャットとの比較です。

分かれ目は「人がいつ入るか」だった

並べると読み取れることが2つあります。

1つ目。技術的な行き詰まりは、人が入れば取り返せる。時間は19.1%余計にかかりますが、質は人だけの対応と区別がつきません。

2つ目。感情のもつれは、人が入っても取り返せない。不満が溜まってから交代した954件は、時間も評価も再問い合わせも全部悪化しています。しかも交代後の担当者の関わり方まで薄くなる(送るメッセージが減り、こちらから聞きにいかなくなる)ことが測られています。逆に、アルゴリズムに言われる前に人が自分から入った分は傷が浅い。早く入るほど戻せる、という順番です。

もうひとつ、素直に良かった話も書いておきます。AIの対象外だったチャットは、評価が0.091点上がりました。定型の対応をAIに渡したぶん、人が難しい案件に腰を据えられるようになった、という説明です。

中小企業の現場に翻訳すると

まとめ

なお、どちらも査読前のプレプリントで、実験自体は2023年から2024年に大規模ECの現場で行われたものです。規模も業務も日本の中小企業とは違うので、数字をそのまま自社の見積もりには使えません。読み方として使ってください。

問い合わせの一次対応をAIに預けて空いた時間を、どこに戻すか。今日の2本は、その戻し先が「他の作業」だと質が落ちて、「難しい一件」だと質が上がる、と言っています。楽ではなく、楽しいを考える。私たちが時間を戻したいのは後者のほうです。

出典

https://arxiv.org/abs/2603.29888

https://arxiv.org/abs/2605.14830

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