AIに「この街でおすすめの◯◯は」と聞かれる側、つまり地域で商売をしている会社の話です。
9月16日に、米国の人口上位100都市でAIが挙げた事業者名を、国の登録簿と1件ずつ突き合わせた監査が公開されました。結論から書くと、AIの推薦は「ウェブ検索につながっているかどうか」でまったく別の代物になっていました。そして、つながっている場合に選ばれる基準は、評価の高さではありませんでした。
名前を呼ばれる側として何を整えておけばいいか、そこまで持ち帰れるように書きます。
約1万5,000回聞いて、返ってきた名前を登録簿と照合した
ニューヨーク大学アブダビ校のHazem IbrahimとYasir Zakiによる監査です(arXiv、2026年9月16日/査読前のプレプリント)。
人口上位100都市それぞれに、5分野(かかりつけ医、病院、介護施設、投資顧問会社、飲食店)で「この街で一番いい◯◯を3つ挙げて」と質問します。聞き方は実際の言い回しに近い9通り。総数は約1万5,000回です。
返ってきた名前は公的な登録簿(メディケアの医師・施設記録、SECの投資顧問登録)と突き合わせ、その都市に本当にいるかを1件ずつ判定しています。
条件は3つ。重みが公開されたモデルを手元で動かしたもの、大手の有料モデルを検索を切って使ったもの、同じモデルに同じ質問を検索ありで投げたもの。後ろの2つは設定も質問も同じなので、差はそのまま検索の有無の効果です。取得は2026年8月19日から21日(飲食店の一部は9月4日)。ひと月前の実測になります。
実在率は0.06%から71%まで開いた
かかりつけ医では、検索なしの有料モデルで一致率10.8%、検索ありで63.9%。53ポイントの差です。介護施設では32.7%が71.2%になりました。
公開モデルはもっと厳しい数字です。医者は4%、介護施設にいたっては、挙がった9,081件の施設名のうち登録簿と一致したのは5件だけ。一致率0.06%でした。
しかも、この4%も「当たっていた」とは言えません。著者は、一致した医者が本当に一次医療の医師かを検定しています。公開モデルでは、登録簿から名前を無作為に引いたときと変わりませんでした。ありふれた姓名が衝突しただけです。いっぽう検索なしの有料モデルでは、一致分の79.9%が本当に一次医療の医師。記憶にある実在の医師を挙げ、残りが作り話だったことになります。
大事なのは、差が出た分野と出なかった分野があることです。病院は48.3%が52.5%(4ポイント)、投資顧問会社は44.1%が51.8%(8ポイント)。ウェブに分厚く情報がある業種では、検索の有無はほとんど効いていません。効いたのは、個人の医師や介護施設のように記述が薄く散らばる分野でした。
都市の大きさでも差が出ます。検索なしだと公開モデルの医者の一致率は上位3分の1の都市圏で7.7%、下位3分の1で3.1%。検索を入れると、この地域差はほぼ消えました。
処分歴のある会社ほど、記憶から出てきた
不気味なのはここからです。投資顧問会社の推薦を、SECへの懲戒記録の開示(Form ADV Item 11)と突き合わせました。検索なしの有料モデルが挙げた会社の18.3%に開示があり、登録簿全体の5.1%の3.6倍。大きい会社ほど開示は増えるので、従業員100人超だけに揃えても31.5%対22.6%で高いままです。公開モデルではさらに強く39.4%でした(規模を揃えた期待値は14.8%)。
検索を入れると反転します。検索ありで一致した会社の開示率は1.7%で、基準値5.1%を有意に下回りました。
著者の解釈は身も蓋もありません。記憶から名前を引き出せる会社とは、よく書かれている会社である。そして行政処分は、まさによく書かれる原因になる。露出と問題の記録が同じ方向に積み上がっているわけです。
選ばれたのは、評価の高い店ではなく、書かれた数の多い店
飲食店に全国的な品質登録簿はありません。そのかわりGoogleマップに、星(質の代理)と口コミ件数(露出の代理)が別々に残っています。2つを切り離して測れる唯一の分野です。
実際に営業している店を保健所の名簿から無作為に取ると、平均4.42、口コミ件数の中央値は357件。これに対してAIが推薦した店は、口コミ件数が中央値の5.3倍(公開モデル)、3.6倍(検索なし)、2.9倍(検索あり)。いっぽう星はプラス0.07、プラス0.10、プラス0.11。0.1星です。
目盛りが違うので、著者は両方を標準化して比べています。露出の押し上げが1.21・1.12・0.93標準偏差、評価の押し上げが0.22・0.32・0.35標準偏差。質より露出が3倍から5倍強く効いていました。
ただし「AIが特別に偏っている」とは言えません。同じ質問でGoogle自身が出してくる店は口コミ件数が中央値の4.8倍で、有料モデルのどちらよりも件数寄りでした。AIはウェブの偏りを引き継いでいるのであって、新しく作っているわけではない。これが素直な読み方だと思います。
同じ質問でも、返ってくる答えは変わる
同じ9月16日に出たもう1本の監査も並べます(arXiv、査読前のプレプリント)。マーストリヒト大学などが、実際の買い物相談2,528件から117問を選び、3回ずつ5経路(ChatGPTとGeminiの画面、それぞれのAPI、GoogleのAI Overviews)に投げて1,536件の回答を分析しました。117問は多い数ではないので参考値です。
同じ質問を繰り返したとき、挙がる商品の重なり(Jaccard係数)はAI Overviewsで0.421、Geminiで0.287、ChatGPTでは0.178。参照元はもっと分かれ、ChatGPTとGeminiが表示するドメインの重なりは平均5.4%、76.7%の比較では1つも共通しません。
1回聞いて自社が出なかったことにも、出たことにも、たいした意味はない。そう考えたほうがよさそうです。
明日からできること
3つに絞ります。
1. 事実面を、公的な名簿とウェブで揃える
検索ありの回答が実際に見ていたページを、著者は引用元から調べています。医者の回答で政府系ソースを引いていたのは1%だけ。残りは病院の広報ページと予約サイトで、飲食店では政府系ソースはゼロでした。
業界団体や自治体の一覧、予約・問い合わせページ、自社サイトの会社情報。ここに載る名称・住所・連絡先・取扱業務が食い違っていないか。まず合わせるのが、いちばん安い手です。
2. 星を上げるより、書かれる回数を増やす
実測では露出が3倍から5倍強く効き、星の差は0.1に届きませんでした。星を捨てろという話ではなく、順番の話です。限られた時間は「評価をあと0.1上げる」より「言及される場所を1つ増やす」に使うほうが、AI経由の推薦には効きやすい。
3. 測るときは、1回で判断しない
同じ質問を、日を変えて複数回、複数のサービスで。うちも自社の見え方を毎月測っていますが、1回の結果で一喜一憂しない理由が今回はっきりしました。
もう1つ、気の重い作業もおすすめします。自社名で出てくる情報を、一度すべて見ておくこと。投資顧問会社の結果が示したのは、悪い記事でも露出は露出として積み上がる、という事実でした。
まとめ
- 米国100都市・5分野・約1万5,000回の監査。検索を切ったAIが挙げた医者の一致率は10.8%、検索ありは63.9%
- 介護施設では、公開モデルが挙げた9,081件のうち実在したのは5件。差が大きいのはウェブの記述が薄い分野で、病院や投資顧問会社は4から8ポイントしか動かない
- 検索なしのAIは、処分歴のある投資顧問会社を基準値の3.6倍の割合で挙げた。検索ありでは基準値を下回った
- 飲食店では質より露出が3倍から5倍強く効いた。ただしGoogle自身の結果はもっと件数寄り
- 別の監査では、同じ質問の参照元がChatGPTとGeminiで5.4%しか重ならない。1回の測定では何も言えない
AIに名前を呼んでもらうために、特別なことはまだ要りません。事実を正しく、拾える場所に置く。それが済んでから露出を考える。順番はこれで十分です。
そのうえで空いた時間を何に使うか。うちが考えたいのは、いつもそちらのほうです。
出典
Hazem Ibrahim, Yasir Zaki「Understanding AI Provider Recommendations in Local Service Markets」arXiv:2609.18341(2026年9月16日/査読前のプレプリント。データ取得は2026年8月19日から21日、飲食店の一部は9月4日)
Lucas G. Uberti-Bona Marin ほか「"If I Had to Buy Just ONE: Galaxy S26 Ultra": Auditing AI-Generated Product Recommendations」arXiv:2609.18729(2026年9月16日/査読前のプレプリント。監査対象は117問・1,536回答)
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