RESEARCH

AI研修の効果は、受けた月だけだった

2026 / 08 / 29AIdollargame 編集部読了 約6分
ノートパソコンのキーボードに手を置いて入力している手元。顔は写っていない

社員にAIを配ったのに手応えがない。そういう経営者に向けて書きました。

先日、個人がAIで速くなっても会社の生産性は動かなかった、という数字を出しました。今日はその一段手前です。そもそも研修のあと、社員の使い方は変わったのか。社員が打ち込んだプロンプトを1件ずつ覗いた研究が今週出ました。

結論を先に書きます。変わったのは、研修を受けたその月だけでした。ただし、練習すれば確実に上手くなる仕事もあります。その線引きが今日の持ち帰りです。

71万件のプロンプトを、社内から覗いた

テキサス大学オースティン校の研究チームとKPMG米国法人が、同社の間接部門を対象に共同で調べた研究です。2026年8月27日公開、査読前のプレプリントです。

社員1人の1か月を1件と数えると、その83.9%で社内AIかCopilotのどちらかが使われていました。別の全国調査の32.1%と比べても、かなり使い込まれている職場です。

そのうえで、使い方の中身を見た数字がこれでした。

打ち込まれた会話のうち

丁寧に話しかけている人は3割いて、合格の基準を書いている人は100人に1人でした。

使う量も偏っていて、社内チャットAIを使った社員のうち上位1割が全会話の51%を占めていました。

職位が上がるほど、使い方が上手かった

指示の明確さ、意図的な工夫の使用、用途の幅。この3つとも、スタッフより課長級、課長級より部長級以上のほうが高くなっていました。研究チームは、仕事の中身を分かっていることがAIの力と補い合っている、という読み方を挙げています。

部署差も大きく、上位は戦略、デジタル改革、プロジェクト管理の3つ。逆に経理・財務は、使用量のどの指標でも平均を下回った唯一の部署でした。表計算が中心で手順の固まった仕事には、チャット形式の道具がそもそも合いにくかった可能性が挙げられています。

そして、研修の話

8か月を通して、上手さは上がっていませんでした。

研修については、社員ごとの変化を追うと、研修を完了した月には上手さが上がります。ところが、その翌月以降には上がっていませんでした。

著者らは慎重です。これは研修が無効だったことを示すものではない、と本文にはっきり書いています。分かったのは、研修の完了が持続的な行動の変化につながった証拠は乏しい、というところまでです。

逆に、人が確実に上手くなっていた実験もある

一方で、人はちゃんと適応して上手くなる、と示した実験があります。MIT、コロンビア大学、マイクロソフトリサーチなどの共同研究。3,750人が参加した事前登録つきのオンライン実験で、2024年7月公開、2026年1月改訂、こちらも査読前です。

課題は2種類。どちらも画像生成AIを使い、参加者は最低10回プロンプトを打ちます。

どちらの課題でも、新しいモデルに当たった人のほうが良い成果を出しました。面白いのは、その伸びの出どころです。

研究チームは、古いモデルで打たれたプロンプトをそのまま新しいモデルに流し直しました。それで説明できる分がモデルの性能、残りが人の書き方の変化による分です。

同じ道具、同じ募集の仕方、同じ画面。違うのは、正解の形が決まっているかどうかだけです。

プロンプトをAIに自動で書き直させる仕組みも試されています。再現課題では伸びを大きく削り、ロゴ課題ではわずかに改善しました。目的とずれた自動化は、性能向上の足を引っ張ります。

なお、書き方を変えて得をしたのは一部の上級者だけではなく、成績の上から下まで幅広く観察されています。

分かれ目は、何を良しとするかが決まっているか

ここからは私の読み方です。論文にそう書いてあるわけではありません。

2本目が示したのは、正解の形が決まっている仕事では人は練習で上手くなるということ。決まっていない仕事では、書き方をどう変えても成果はモデル任せになるということです。

1本目が覗いたのは、間接部門の日々の相談ごとでした。何をもって合格とするかを書いていた会話は、1.0%しかありません。基準が書かれていない場所では、上手いも下手も定義されません。定義できないものは、研修でも教えられません。

研修が効かなかったというより、基準のない仕事に汎用の研修を当てていた。そう読むほうが、2本の食い違いは素直に説明できます。

会社側の動きは、まだ結論が固まっていない

3本目です。ドイツの事業所パネル調査で、AI導入後に会社が研修をどう変えたかを調べた研究があります。著者はミュンヘン大学のミューレマン。

同じ著者、同じデータで、年を足したら向きが変わりました。ここは確定した話として扱わないでください。

ただ、どちらの版にも共通する点が1つあります。AIを入れたあと、人への投資は上のほうに寄る。1本目の「職位が上ほど上手い」と同じ向きです。

中小企業の現場に翻訳すると

私はAI研修を商品として持っている側です。そのうえで書きます。研修をやめろという話ではありません。中身を、AIの操作から自社の合格基準を言葉にする作業へ替える、という話です。

まとめ

どれも海外の研究で、1本目は大手会計事務所の間接部門、2本目は画像生成の実験です。数字をそのまま自社に当てはめず、読み方として使ってもらえればと思います。

出典

https://arxiv.org/abs/2608.27364

https://arxiv.org/abs/2407.14333

https://doi.org/10.1016/j.jebo.2025.107206

https://docs.iza.org/dp17367.pdf

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