RESEARCH

「AIで作りました」と言うと信頼が下がる

2026 / 08 / 19AIdollargame 編集部読了 約7分
店の窓辺に下げられた木製のOPENの看板

AIで見積書の下書きを作った。提案書のたたき台をAIに書かせた。問い合わせの一次返信をAIが打っている。

それを、お客さまに言うべきか。言わないでおくべきか。

私も自分の会社で毎日この判断をしています。正直に言ったほうがいいに決まっている、と思っていました。ところが、そう単純ではないという実験結果が積み上がっています。

今回読んだのは、13回の実験と、そのうち4,093人分をまとめたメタ分析です。結論を先に書きます。AIを使ったと開示した側は、開示しなかった側より信頼されませんでした。ただし、いちばん信頼を失うのは開示した人ではありませんでした。

AIを使い始めた中小企業の経営者に向けて、この結果をどう実務に落とすかまで書きます。

13の実験すべてで、開示した側が信頼を落とした

アリゾナ大学のオリバー・シルケ氏とマーティン・ライマン氏の研究です。学術誌 Organizational Behavior and Human Decision Processes の第188巻に2025年に載った、査読済みの論文です。

実験は13本。すべて事前登録済みで、集める人数も先に決めてから集めています。後から都合のいい結果を選んだ、という類の話ではありません。

調べた場面はかなり幅があります。教授が成績をつける、上司が文書を書く、アナリストが分析する、クリエイターが作品を作る、投資ファンドが運用する。仕事の中身も、事務的なものから創造的なものまで散らばっています。

そのうち条件がそろう4,093人分をまとめたメタ分析の結果、AI利用を開示した条件の信頼は、開示しなかった条件よりはっきり低いことが確認されました。統計上の効果の大きさは0.81で、心理学の実験としては大きい部類に入ります。

厄介なのは、逃げ道がほとんど塞がれていることです。

論文では、言い方を柔らかくしても効果が消えないことが示されています。開示が任意でも義務でも下がります。相手がすでにAIの関与を知っている場合でも下がります。AIそのものを嫌う気持ち(いわゆるアルゴリズム嫌悪)とは別に、開示という行為そのものが効いていました。

唯一の緩和材料は、評価する側の性格でした。新しい技術に前向きな人、AIは正確だと思っている人では、下げ幅が小さくなります。ただし、ゼロにはなりません。

いちばん低かったのは「黙っていて、バレた人」

この研究で私がいちばん実務に効くと思ったのは、13本目の実験です。

参加者はチャット画面で、税務相談の担当者と話します。担当者は還付額の見積もりを出してくれる。参加者は約2,900ドルの還付見込み額を見せられます。ここまでは全員同じです。

違うのは、その見積もりがどう作られたと知らされるかです。

そのあとで、担当者への信頼を7点満点で答えてもらいました。結果はこうです。

開示すると0.87点落ちます。それは確かに痛い。けれど、黙っていて見つかったときは、さらに0.66点落ちます。合計で1.53点、7点満点のうち2割以上が消えます。

隠して得られる0.87点は、見つかった瞬間に倍近く取り返されるということです。

この実験の参加者は195人で、けっして大きくありません。ただ、同じ方向の結果が13本で一貫していること、その全体をまとめたメタ分析が4,093人分あることが、この1本を支えています。

なぜ下がるのか。2026年の続報は「珍しいから」と答えた

同じ2人が2026年に、学術誌 Social Psychology Quarterly に続きの論文を出しています。こちらも査読済みです。

問いは「なぜ開示すると信頼が下がるのか」。答えは、正当性(legitimacy)が揺らぐから、というものでした。もう少し噛み砕くと、3つの引っかかりが順番に起きます。

  1. 珍しさ: まだ普通のやり方として定着していない、と感じる
  2. 手の抜き方: 自分でちゃんと向き合っていないのでは、と感じる
  3. 本物らしさ: 目の前にあるものが本人のものではない、と感じる

この順番で信頼が削られていく、という筋道が実験で確かめられています。

ただし、この続報の中心となる実験の参加者は94人です。仕組みを説明するための実験なので人数が少なく、これ単独で世の中の話をするには足りません。あくまで、大きいほうの研究に理由を付ける材料として読むのが正しい距離感だと思います。

反対側も見る。罰は思ったほど広がらなかった

片方だけ読むと極端になるので、逆の材料も探しました。

見つかったのは、全国から3,861人を集めた大きめの実験です。米国の代表性のある標本で、政策に関するニュース記事に「AIで作成」というラベルを付けたときに何が起きるかを調べています。arXivに公開されたプレプリント(査読前)で、初版が2025年6月、改訂版が2026年2月です。

結果は2つに分かれました。

ラベルを付けた記事そのものは、正確さの評価が下がりました。ここは先の研究と同じ向きです。

一方で、被害はそこで止まっていました。読んだ人の政策に対する立場は動かず、ネット全体の誤情報への不安が高まることもありませんでした。ラベルは、その記事の評価を下げただけで、周りには広がらなかったということです。

さらに興味深いのが、AIが世の中で広く使われていることを先に意識させておくと、ラベルによる評価の下がり方が小さくなった点です。

これは1本目の研究とも噛み合います。あちらの7本目の実験では、AIの利用が広く受け入れられていると先に示しておいた条件で、開示による信頼の下げ幅が0.4ポイント分ほど縮んでいました(効果量が1.12から0.72へ)。

つまり「珍しいこと」として突然出すか、「もう普通のこと」という土台の上に置くかで、同じ開示でも痛みが変わります。

中小企業が明日からやれること

ここまでを、うちのような小さい会社の実務に翻訳します。

1. 毎回言うのをやめて、最初に一度だけ言う

開示のたびに罰を払う構造になっています。だから、案件ごとに毎回「これAIで作りました」と申告するのは、いちばん高くつくやり方です。

代わりに、契約前の説明や初回の打ち合わせで、AIをどの業務に使うかを一度だけ、はっきり伝えて合意しておく。以後はそれが前提になります。研究で下げ幅が縮んだのは、まさに「これは普通のこと」という土台がある条件でした。

2. 隠すという選択肢は、実は選択肢ではない

黙っていれば0.87点は守れます。しかし見つかったときは2.49点まで落ちます。しかも今は、文章がAI由来かどうかを疑う目が普通にある時代です。

隠す判断は、見つからないほうに賭けることと同じです。うちは賭けない、と決めておいたほうが早いと思っています。

3. 「使ったかどうか」ではなく「確かめられるもの」を一緒に出す

研究が測ったのは信頼であって、成果物の質ではありません。ここは私の解釈になりますが、質を自分で確かめられる材料が手元にあれば、相手は「AIかどうか」だけで判断しなくて済みます。

見積もりなら計算の根拠、返信なら実際にかかった時間、原稿なら誰が最終確認したか。数字と名前が出ているものを添える。それだけで、話の土俵が変わります。

まとめ

次にやることは1つで足ります。お客さまとの最初の説明資料に、AIを使う範囲を1行だけ足す。毎回の告白をやめて、最初の合意に変える。それだけで払うコストが変わります。

AIに任せて浮いた時間を、何に使うか。そこを一緒に考えたいと思っています。楽になることは入口で、その先が本番です。

出典

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0749597825000172

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/01902725261425997

https://news.arizona.edu/news/disclosing-ai-use-can-backfire-research-shows

https://arxiv.org/abs/2506.16202

写真: Openverse(CC0)

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