AIに何かを打ち込むとき、その中身がどこへ行くのかを気にしたことがあるでしょうか。
2026年9月1日から3日にかけて、主要4社が新しいAIを出しました。3日で4本です。性能の比較はよそでも読めるので、ここでは1点だけ書きます。打ち込んだ内容の扱いが、会社ごとに、しかも同じ会社の中でもプランごとに、はっきり割れました。
見積書やお客さんの名簿をAIに入れている会社には、性能表より先に見てほしい話です。
まず、出たもの4本
日付順です。
- 9月1日、Anthropic「Claude Fable 5.1」と「Claude Mythos 5.1」
- 9月2日、Google「Gemini 3.8 Flash」と「Gemini 3.8 Flash Cyber」
- 9月2日、Meta「Muse Spark 1.3」
- 9月3日、OpenAI「GPT-6 Astra」
AnthropicとGoogleの2本ずつは、中身は同じもので、安全装置の強さが違うだけです。片方は誰でも使えて、もう片方は審査を通った組織だけ。
Metaだけ違いました。Metaは、値段で2つに分けています。
Metaは、打ち込んだ内容と引き換えに安くする
Muse Spark 1.3には、プランが2つあります。
普通のプランは、打ち込んだ内容が学習に使われません。もうひとつはContributorという名前で、こちらを選ぶと、自分が打ち込んだ文章と、AIが返してきた文章を、Metaが次のAIを作る材料として使います。
値段の差は、入力で12倍以上、出力で21倍です。同じAI、同じ性能で、これだけ違う。
Metaは「中身をもらえるなら安くします」と言っている、ということです。
ここで重要なのは、AIに何を打ち込んでいるかです。
世の中に出ている資料をまとめるだけなら、渡して困るものはありません。けれど、見積書、カルテ、履歴書、図面、お客さんの名簿。こういうものを打ち込んでいるなら、渡すのは自分の文章ではなく、他人の情報です。
その話が、発表に書いていない
困ったことがもうひとつあります。
9月2日にMetaが出した発表ページには、性能が上がったという説明と、他社との比較表があるだけ。値段も、学習に使いますという話も、書いてありません。料金ページと、開発者向けの説明書きの更新として出ています。
さらに報道によると、渡した中身をいつまで持っておくのか、人が読むことがあるのか、あとから取り消せるのかは、公開されていないそうです。
安いプランを用意すること自体は、悪い話ではありません。ただ、選ぶかどうかを決めるのに一番必要な話が、発表を読んでも出てきません。
GoogleとAnthropicは、別のものと引き換えにした
同じ時期に、この2社も値下げをしました。ただし、こちらが差し出すものが違います。
Googleが求めたのは、期限を飲むことです。Gemini 3.8 Flashは前の型と同じ値段ですが、2027年1月1日から倍にすると公式ブログに自分で書いています。安いのは今だけだと、先に言ってあるわけです。
Anthropicは、そもそも全員を安くしていません。Claude Fable 5.1は本体の値段を変えず、同じ資料を何度も読ませ直すときの料金だけを75%下げました。社内マニュアルを丸ごと読ませて質問に答えさせる、という使い方の人だけ請求が軽くなり、そうでない人は何も変わりません。
3社を並べると、こうなります。
- Meta:打ち込んだ内容をもらえるなら安くする
- Google:今だけ安い。来年1月から倍
- Anthropic:同じ資料を繰り返し読ませている人だけ安くなる
同じ「安くなりました」でも、こちらが差し出すものが全部違います。
この3つのうち、あとから取り返しがつかないのはMetaだけです。期限はカレンダーを見れば分かります。使い方は変えられます。でも、一度渡したお客さんの情報は戻ってきません。
危ないことができるAIは、審査つきになった
もうひとつ、3社に共通していた動きがあります。
Anthropicは、Mythos 5.1をセキュリティと生命科学の審査を通った組織にしか出しません。当面は米国内だけです。Googleも、セキュリティ用のCyberはFairwindという限定枠で、政府機関や、電気や水道のような重要インフラの運用者、ソフトの保守をしている人が申請して使います。OpenAIのAstraも、能力を閉じた状態で出しました。昨日書いたとおりです。
強いことができるAIは、全員に配らず、審査した相手にだけ渡す。3社が同じ月に同じ形を採りました。
打ち込んだ内容の扱いも、強い機能の配り方も、誰にでも同じ形では渡さなくなってきました。今月出た4本に共通していたのは、そこです。
分かれ目は、値段ではなかった
安いプランがある。性能はほとんど同じ。それでも選べない会社があります。
分かれ目は、AIに何を打ち込んでいるかです。自分の考えを打ち込んでいるのか、預かった他人の情報を打ち込んでいるのか。前者なら安い方でいい。後者だと、いくら安くても選択肢に入りません。
うちは普段使うAIをOpus 5のままにしていて、新しく出たものにすぐ乗り換えてはいません。値段でも性能でもなく、扱っているものが人様の情報だからです。
安さには必ず理由があります。理由を確かめずに安い方を選ぶと、いつか自分ではなく、お客さんが払うことになります。
まとめ
- 9月1日から3日で、Anthropic、Google、Meta、OpenAIが新しいAIを出した
- Metaは同じAIにプランを2つ用意した。安い方は、打ち込んだ内容と返ってきた内容を学習に使う許可と引き換え。値段の差は入力で12倍以上、出力で21倍
- その条件はMetaの発表ページになく、料金ページと開発者向けの説明にある。保存期間、人が読むのか、取り消せるのかは公開されていない
- Googleは期間限定で安く、Anthropicは同じ資料を繰り返し読ませる人だけ安い。3社とも安くしたが、引き換えにしたものが違う
- 危ないことができるAIは、3社とも審査つきの別枠に移した
値段の話に見えて、中身は、お客さんから預かった情報をどう扱うかの話でした。新しいものが出るのは面白いですが、ここだけは先に決めておきたいところです。
出典
- Anthropic「Introducing Claude Fable 5.1 and Claude Mythos 5.1」2026年9月(公式発表。キャッシュ読み取りの75%値下げ、Mythos 5.1の審査プログラムと米国内限定はこのページによる)
https://www.anthropic.com/claude-fable-and-mythos-5-1
- Google「Introducing Gemini 3.8 Flash and 3.8 Flash Cyber」2026年9月2日(公式ブログ。据え置き価格と2027年1月1日からの倍額、Fairwindの対象はこのページによる)
- Meta「Introducing Muse Spark 1.3」2026年9月2日(リサーチブログ。公開日と提供先はこのページによる。値段と学習の条件は、このページには書かれていない)
https://research.meta.ai/blog/introducing-muse-spark-1-3
- eesel AI「Meta Muse Spark 1.3: benchmarks, pricing, and what changed」2026年9月(Contributorの値段と条件、書かれていない項目の整理。第三者による記事で、Metaの公式発表ではない)
https://www.eesel.ai/blog/muse-spark-1-3
写真:Image Catalog/CC0/Openverse
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