公的な調査データを毎月そのまま読んで、中小企業のいまを数字で確かめる連載「定点観測」。第2号のテーマは人手不足です。
今回は少し不思議な数字の並びを扱います。求人は増えている。求人倍率も上がっている。それなのに、人手不足を理由に倒れる会社は過去最多を更新しました。どちらも同じ2026年の日本で起きていることです。
求人は増えている。倍率も上がっている
厚生労働省が2026年7月31日に公表した「一般職業紹介状況(令和8年6月分)」から、まず全体の現在地です。
- 有効求人倍率(季節調整値): 1.18倍(前月から0.01ポイント上昇)
- 新規求人倍率(季節調整値): 2.16倍(前月から0.05ポイント上昇)
- 正社員有効求人倍率(季節調整値): 1.00倍(前月から0.01ポイント上昇)
- 6月の新規求人(原数値): 前年同月比 3.1%増
有効求人倍率1.18倍は、仕事を探している人100人に対して求人が118件ある状態です。正社員に限った倍率もちょうど1.00倍まで戻り、正社員の求人と求職者の数がようやく釣り合ったところにあります。
新規求人を産業別に見ると、前年同月比でサービス業(他に分類されないもの)が11.5%増、製造業が10.4%増、宿泊業・飲食サービス業が5.4%増。一方で情報通信業は6.4%減、卸売業・小売業は2.6%減、教育・学習支援業は2.2%減でした。人を採りたい側の手はしっかり挙がっています。
それでも、人手不足で倒れる会社は過去最多
ここからが今月の本題です。東京商工リサーチが2026年7月3日に公表した集計(公的統計ではなく民間調査です)によると、2026年上半期の「人手不足」倒産は237件。前年同期比37.7%増で、調査を始めた2013年以降、上半期としては初めて200件台に乗りました。3年連続の最多更新です。
内訳でいちばん動いたのは、人手が採れなかったことではなく人件費でした。「人件費高騰」を要因とする倒産が120件、前年同期比140.0%増と2.4倍に膨らんでいます。資本金1千万円未満が154件(41.2%増)を占め、形態別では破産が229件で96.6%。小さい会社ほど、そして立て直す猶予がないまま終わっています。
求人という「入口」の数字と、倒産という「出口」の数字を並べると差は歴然です。新規求人の伸びが前年同月比3.1%増なのに対し、人手不足倒産は37.7%増。伸び率でおよそ12倍の開きがあります(両者は指標も期間も異なるため厳密な比較ではありませんが、方向と勢いの差ははっきりしています。この比較はAIdollargame編集部による計算です)。
詰まっているのは採用の蛇口ではない
求人が増えているのに倒産が増えるという並びが意味するのは、ひとつです。募集を出しても、その人件費を払いきれる収益力のほうが先に尽きているということ。求人票を出す段階では詰まっていません。詰まっているのは、採った人に払える金額と、いまいる人が1日にこなせる仕事の量のほうです。
この構図では、「もっと採る」は解決策になりません。採るほど人件費が増え、人件費高騰倒産の120件と同じ道をたどります。残る出口は、いまいる人の1人あたりの処理量を上げることだけです。
定点: 中小企業のAI導入率は20.4%のまま
では、その処理量を上げる側の数字はどうか。vol.1で扱った中小企業基盤整備機構の実態調査(2026年3月公表)では、AIを導入している中小企業は20.4%、検討中を含めて39.0%でした。この調査は年次のため今月時点でも最新値が同じで、導入率は20.4%に据え置きです。
同じ調査で、AI導入の効果として2番目に多く挙げられていたのが「人手不足対応」(33.9%)でした。効果は出ている。それでも8割の会社はまだ入口の外にいます。人手不足倒産が37.7%増える速さと、導入率が動かない遅さ。この2つのあいだにある時間が、いま中小企業が背負っているリスクの正体です。
編集部の見立て: 今年の判断は「採用か、処理量か」
2026年後半に経営者が迫られる判断は、AIを入れるかどうかではなく、次の1人分の予算を採用に置くか、処理量に置くかだと編集部は見ています。前者は人件費高騰倒産と同じ賭けになり、後者はまだ8割の会社が手をつけていない領域です。
もちろん、AIで人手不足がすべて解けるとは言いません。現場に人がいないと成り立たない仕事はたくさんあります。ただ、その現場の人が事務や問い合わせ対応に取られている時間は、たいてい削れます。うちが実際に売れている用途も、派手な自動化ではなく社内マニュアルをAIに覚えさせて、同じ質問への回答を総務から引き剥がすという地味なところです。vol.1の調査でも、AI導入が最も進んでいる部門は総務・管理(68.3%)でした。
代表・佐藤徳之介はこう話します。「求人倍率が上がっているのに倒産が過去最多、という数字を見て腹落ちしました。人が採れないから苦しいのではなく、採ったら払えないから苦しい。だとすれば手当てするのは採用ではなく、いまいる人の手が空くかどうかです。まず1業務、いちばん問い合わせが多いところから試してほしい」
「求人は増えている。それでも倒れている。足りないのは人ではなく、その人に払える余力です。」
出典
- 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年6月分)」(2026年7月31日公表。有効求人倍率・新規求人倍率・正社員有効求人倍率・新規求人の産業別前年同月比は同統計より)
mhlw.go.jp(報道発表資料) - 東京商工リサーチ「2026年上半期『人手不足』倒産」(2026年7月3日公表・民間調査。件数、前年同期比、人件費高騰の内訳、資本金別・形態別は同集計より)
tsr-net.co.jp(TSRデータインサイト) - 中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(2026年3月公表。AI導入率20.4%、効果としての人手不足対応33.9%、総務・管理部門68.3%は同調査より。vol.1と同じ最新値)
smrj.go.jp(調査結果PDF)
※ 新規求人の伸び率と人手不足倒産の伸び率を比べた箇所はAIdollargame編集部による計算です。それ以外の数値はすべて出典元の公表値をそのまま引用しています。将来の見通しに関する記述は「編集部の見立て」と明記しています。