運送の現場でいちばん重い悩みは、たいてい「人が採れない」ことです。厚生労働省のデータをもとにした集計では、2025年平均のトラック運転手の有効求人倍率は2.61倍。全産業平均の1.22倍を大きく上回り、1人の求職者をおよそ2〜3社で奪い合っている計算になります。採用は年々難しくなっています。
採用に力を入れるのは、もちろん大事です。ただ、採る前にできることがもう一つあります。「今いる人数で、もっと回せるようにする」こと。その鍵が、新人の立ち上がりを早め、ベテラン頼みを減らすことです。
なぜ「採る」だけでは追いつかないのか
構造を数字で見ると、採用競争に勝ち続けるだけでは厳しいことが分かります。2024年4月からは、いわゆる2024年問題として運転手の時間外労働に上限規制がかかり、人手不足がさらに顕在化しました。若手の比率も低く、道路貨物運送業で15〜29歳が占める割合は9%(全産業平均は17%)にとどまり、高齢化が進んでいます。
さらに政府の試算では、輸送能力は2024年度に約14%、2030年度には約34%不足すると見込まれています。つまり、業界全体で構造的に人が足りない。だからこそ、採用と並行して「一人あたりの立ち上がりと生産性」に目を向ける会社が増えています。
運送の「覚えること」は、実は膨大です
新人のドライバーや事務が覚えることを並べてみると、その多さに気づきます。配車のルール、点呼とアルコールチェックの手順、荷主ごとの積み下ろしや伝票、時間指定の扱い、車両点検、事故が起きたときの初動、請求のやり方。その多くが、マニュアルに載っていない「先輩に聞かないと分からない」属人的な知識です。
人が辞めるたびに、この知識はいったんリセットされ、また一から教え直しになります。教える側のベテランの手も止まる。採用と離職を繰り返すほど、この負担は積み重なっていきます。
社内ナレッジAIで「聞けば即答」にする
いま運送の現場で相性がよいAIの使い方は、社内の手順書・ルール・過去のやり取りをAIに集約し、「あの荷主の時間指定どうだっけ」「事故ったらまず何をする」と聞けば、その場で答えが返ってくる状態をつくることです。分厚いマニュアルを読ませるのではなく、聞けば返る。ここが肝心です。
効果はシンプルです。新人の立ち上がりが早まる。ベテランが教育に取られる時間が減る。そして、人が辞めても、その人の判断は会社に残る。
正直に書いておくと、AIでドライバー不足そのものが解決するわけではありません。それは構造的な問題です。ただ、「限られた人数で、教育の負担を減らして回す」ことには、はっきり効きます。参考までに、パナソニック コネクトは自社向けAIアシスタントを全社員約1万2,400人に展開し、導入1年で労働時間を年間18.6万時間削減したと発表しています。1回あたり平均20分ほどの短縮の積み重ねで、中小企業でも構造は同じです。
最初の一歩
全社導入は要りません。まずは「新人が必ず先輩に聞くこと」を一つ選び、その答えをAIに覚えさせます。荷主ごとの対応でも、事故時の初動でもかまいません。一つで効果を体感してから、範囲を広げていきます。
代表・佐藤徳之介はこう話します。「運送の会社さんとお話しすると、どうしても"採用が全て"になりがちです。ですが、採るのと同じくらい、"早く戦力になってもらう・辞めても知識を残す"が効きます。AIで人手不足が消えるとは言いません。ただ、今いる人の負担を軽くする一手として、社内ナレッジはとても相性がいいんです」
「楽ではなく、楽しいを考える。」聞き回りや教え直しは、楽しい仕事ではありません。そこをAIに預けたぶん、人は運転と荷主に向き合えます。まずは一つ、思い浮かべてみてください。貴社で、新人が必ず先輩に聞いていることは、何でしょうか。
「人手不足は、採用だけでは追いつかない。今いる人を早く戦力にし、辞めても知識を残す。そこにAIの使いどころがある。」
出典
- 国土交通省「トラック運送業の現状等について」(有効求人倍率・若手比率・輸送能力の不足試算)
mlit.go.jp - 内閣府「地域の経済2023」補論 物流業の人手不足問題(2024年問題・輸送能力不足)
cao.go.jp - パナソニック コネクト「生成AI導入1年で労働時間を18.6万時間削減」(2024年6月発表)
news.panasonic.com