経験の浅い社員にAIを持たせれば、ベテラン並みの仕事ができるのか。
そこを知りたい方に向けた記事です。
この夏、正反対に見える実験が2本出ました。
片方は「AIで差は縮む」、もう片方は「AIで差は広がる」。
読み比べると、どちらが正しいかではなく、測っている場所が違うだけだと分かります。そしてその違いが、そのまま社内でAIをどう配るかの答えになっていました。
この記事では、成績の差を全部「100人を成績順に並べたら何番か」で書きます。何番の人が何番になったか、それだけ追えば読めるようにしました。
実験1:真ん中だった人が、11番になった
1本目は、アルゼンチンで2025年9月から11月にかけて行われた実験です。25歳から45歳の1,174人が参加しました。
課題は、いかにも仕事らしいものです。
- 上司からメールが届く。添付の資料には本文と図と表が入っている
- それを読んで、何が問題かを見立て、解決策を提案する返信を書く
- 舞台はカフェ、フードデリバリー、家電量販店の3種類。業界知識がなくても解けるように作られている
- 想定20分。実際の平均は21分。出来に応じて報酬が変わる
参加者はくじ引きで、AIを使える人と使えない人に分けられました。
学歴も2つに分けています。
高卒か、大学などを半分未満しか終えていない人。
もう一方は、半分を超えて終えた人です。
以下、前者を学歴が短い人、後者を学歴が長い人と書きます。
まず、AIを渡すとどれだけ伸びたか。
- 学歴が短い人:100人中50番だった人が、11番あたりまで上がるくらい伸びた
- 学歴が長い人:50番だった人が、20番あたりまで
両方伸びています。
ただし伸び幅は、学歴が短い人のほうが大きい。
次に、2つのグループの差そのものがどうなったか。
- AIなしのとき:学歴が長い人は、学歴が短い人の中では29番くらいの位置にいた。50番と29番の開きです(差は21)
- AIありのとき:その位置が45番まで下がった。50番と45番の開きです(差はわずか5)
はっきり分かる差が、言われても気づかない差になりました。
AIを使用したら学歴による差が極端に縮んだと言うことになります。
もとの開きの4分の3が消えた計算です。
ただし、AIを取り上げたら差は戻ってきた
この研究の良いところは、課題のあとにもうひとつ、AIなしの課題を出していることです。伸びが本物なのか、ただAIに書かせただけなのかを見分けるためです。
分かったのは3つでした。
1. AIを使った人が、あとで使わなかった人より下がることはなかった。丸投げで実力が落ちる、という形にはならなかった
2. 学歴が短い人は、伸びの一部を持ち越した
3. それでも、学歴による差ははっきり戻ってきた
そして、最も実務に効くのがこれです。
AIなしの課題の成績を、AIをどれだけ使ったかと、本人がどれだけ手を動かしたかで分けると、こうなりました。
- AIをよく使い、本人もしっかり取り組んだ人:50番だった人が23番あたり
- AIをよく使ったが、本人の関与が薄かった人:50番だった人が47番あたり。ほぼ動いていない
同じだけAIを使っています。それでも、AIを外した瞬間に残ったものが全然違いました。
AIを使っている最中の成績は、本人が手を抜いてもそこそこ出ます。
手を抜いたことがばれるのは、AIを外したときです。
実験2:同じAIで、逆に差が広がった
2本目は、アメリカのミドルベリー大学で2025年春に行われた実験です。学部生211人が、監督付きの対面授業に1週間あけて2回参加しました。
1回目に、知らないテーマを学んで小論文を書きます。ここでくじ引きで、AIを使える人と使えない人に分かれます。
そのあと、どちらもAIなしで理解度テストを受け、1週間後にもう一度AIなしで測ります。
- 直後のテスト:AIを使えた人のほうが正答率が6.7ポイント高い(使えなかった人は56.3%)
- 1週間後:5.1ポイント高い。直後の差の4分の3ほどが残った
- 小論文の質:AIを使っている間はほとんど変わらず、1週間後にAIなしで書いたときに、文章の運びと論点の的確さが上がっていた
ここまでは良い話です。問題は、誰が伸びたかでした。
もともと成績が良かった層のほうが、下の層より伸びが大きかった。
つまりこの実験では、AIは差を広げる方向に働いています。
分かれ目は「使い方」と「そのあと」だった
正反対に見える2本ですが、重なる線が1本あります。使い方です。
2本目の研究は、学生とAIの会話ログを読んで、使い方を分類しています。
- AIを使った学生の49%が、一緒に考える型。分からないところを説明させる
- 32%が、丸投げ型。文章を書かせる。提出物のAI検出率も明らかに高い
- 何に使ったかで見ると、説明させたが57%、下書きを書かせたが31%、要約させたが17%
1週間後まで効果が残ったのは、一緒に考える型でした。
丸投げ型がその場で得た質の高さは、AIを外すと消えています。
AIを使えた学生は文章を書く時間が減り、そのぶん読む時間と調べる時間が増えていました。学ぶのが楽しかった、という回答も増えています。書く手間をAIに渡して、理解に時間を戻した形です。
1本目の「関与が薄いと後に残らない」と、2本目の「説明させた側だけ後に残る」は、同じことを別の角度から言っています。
では、なぜ結論が逆に見えるのか。1本目は仕事の成果を測り、2本目は本人の実力を測っているからです。AIを持たせたままの成果を見れば差は縮み、AIを外したあとの実力を見れば差は残る、どころか広がる。同じ道具で両方起きます。
中小企業の現場に翻訳すると
- 経験の浅い人にこそ先に渡す。伸びたのは50番から11番と、50番から20番。浅い側のほうが大きかった。ベテランから配る順番になっていないか、見直す価値があります
- ただし、それは「AIありの成果」であって、その人の実力ではない。評価と育成でここを混ぜない。AIを使った成果物と、その人が自分の口で説明できることは、別に見る
- 育てたいなら、書かせるのではなく説明させる。1週間後まで残ったのは説明させた側でした。新人には「この提案の理由を3行で説明して」までAIに聞かせる
- 本人の関与が薄いまま量をこなさせない。使っている間の成績は関与に関係なく上がるので、その場では気づけません
- できる人ほど放置しない。2本目では上の層のほうが伸びました。差が広がるのは、下ではなく上に効いたときです
まとめ
- AIを渡すと、学歴による開きが「50番と29番」から「50番と45番」まで縮んだ。もとの4分の3が消えた
- AIを取り上げると、その差は戻ってくる
- 後に残ったのは、AIをよく使い、かつ本人も手を動かした人だけ。関与が薄かった人は、AIを外すとほぼ元通りだった
- 別の実験では、正答率が6.7ポイント上がり、1週間後も4分の3が残った。ただし伸びたのは、もともと成績が良かった層のほう
- 使い方で結果が割れる。説明させた側は後に残り、書かせた側はAIを外すと消えた
- 明日からの一歩は、AIを配る順番より先に、「AIを外したときに何が残るか」を見る場を作ること
どちらもまだ査読を通っていない研究で、実験もオンラインの課題と大学の授業です。日本の中小企業の現場そのものではないので、数字をそのまま自社の見積もりには使えません。読み方として使ってください。人数も1,174人と211人で、後者は決して多くありません。
AIを渡すと、その日の成果はすぐ上がります。上がらないのは、AIを外したときに残るものです。そこを残したいなら、書かせるのをやめて説明させる。一手間だけの話でした。
出典
記事中の順位(50番の人が何番になったか)は、論文が出している効果の大きさを、点数が山なりに散らばるとみなして100人中の順位に置き換えたものです。分かりやすさのための換算で、論文にそのまま書かれている数字ではありません。元の数値は下記の論文にあります。
- Cruces, Fernández Meijide, Galiani, Gálvez, Lombardi「Does generative AI narrow education-based productivity gaps? Evidence from a randomized experiment」(arXiv:2608.04198、2026年8月4日公開/NBER Working Paper 34851としても配布。査読前の研究。事前登録あり。実験は2025年9月から11月、アルゼンチン、1,174人)
https://arxiv.org/abs/2608.04198
- Contractor, Reyes「Experimental Evidence on the Learning Impact of Generative AI」(arXiv:2607.08849、2026年7月9日公開/IZA Discussion Paper No. 18792、2026年7月。査読前の研究。実験は2025年春、ミドルベリー大学、学部生211人)
https://arxiv.org/abs/2607.08849
- 上記IZA版の全文(本文の数値はこのPDFで確認しています)
https://docs.iza.org/dp18792.pdf
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